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遺物の産地
■キーワード
■概要
一般的に、胎土分析は土器製作地を推定する場合が多いと思われますが、胎土材料を調べるための材料分析も含みます。 土器の材料を調べることは、土器の製作技法に関する検討を可能にします。
土器の胎土材料は、基本材料として粘土と混和材から構成されますが、 珪藻化石や骨針化石などの微化石類を調べることにより粘土が海水成か淡水成かを推定することが可能です(車崎ほか、1996)。
一方、混和材は、砂粒物のほか火山灰や植物質物など数々の種類の存在が予想されることから、詳細に調べる必要があります。
■対象試料
分析試料は、型式学的に十分検討された土器が望ましいです。試料の大きさは、土器の一部、約2x2cm程度を使用します。 なお、肉眼的に特徴的な材料を使用した土器群や特定の地域または特定の時代に見られる土器群などは調べておきたい対象です。
■分析方法
土器試料は、エポキシ樹脂を用いて固化処理を行い、厚さ30μm程度の観察用薄片を作成します。
実際には、
1)任意位置における粒子組成を調べ、
2)薄片全面について珪藻化石などの微化石類や岩石片・鉱物の出現状況を調べます。
さらに、特徴的な粒子の産状についても調べます。
■解析・考察
解析は
考察は、粘土および岩石の起源の組み合わせ等により対象土器について分類を行い、
遺物とその材料についての関係を検討します。
以下に、これまで分析した興味深い事例についてまとめておきます。
a) | 土器中に見られる植物珪酸体化石の多産または集合塊は、粘土の水分調整などを行うための除粘材として灰質物を混ぜた可能性が示されています(藤根、1998)。 |
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b) | 河内産土器(生駒西麓産土器)は、斑レイ岩類や付随する角閃石類を特徴的に多く含みますが、これら砂粒は破壊構造を示すことから、断層運動に伴って出来た断層粘土(断層ガウジ)を利用したことが推定されました(藤根・小坂、1997)。なお、断層ガウジは、砂粒物を多く含みますが、優れた材料であるため器壁の薄い土器を作ることが可能です。 |
c) | 土器中の砂粒表面に付着・密集する小型珪藻化石が観察される場合がありますが、現在の川砂の表面には同様の状況が観察されることから、当時の河川砂を混入した可能性を示しています(藤根・古橋、1998)。 |
なお、可能な場合には、粘土の特徴から該当する粘土層分布域を示し、材料を採取できる地域(製作地推定)についても検討します。
■引用文献
車崎正彦・松本 完・藤根 久・菱田 量・古橋美智子( 1996 )土器胎土の材料-粘土の起源を中心に-.日本考古学協会第 62 回総会, 153-156.
藤根 久・小坂和夫( 1997 )生駒西麓(東大阪市)産の縄文土器の胎土材料-断層内物質の可能性-.第四紀研究, 36 : 55-62.
藤根 久( 1998 )東海地域(伊勢 - 三河湾周辺)の弥生および古墳土器の材料.第 6 回東海考古学フォーラム, 108-117.
藤根 久・古橋美智子(1998)武士遺跡出土縄文土器の材料分析.市原市武士遺跡2福増浄水場埋蔵文化財調査報告書,1747-1768.