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年代測定及び推定法

地磁気残留磁化測定残留磁化測定による年代測定

■キーワード

  • 年代推定
  • 地磁気永年変化曲線
  • 熱残留磁化
  • 段階交流消磁実験
  • 焼土
分析装置
分析装置(交流消磁装置、スピナー磁力計、磁力計操作用PC)

■概要

地磁気の方向と強さは時代によって変化します。この変化を利用して年代を推定するのが残留磁化測定による年代推定です。 土には磁鉄鉱などの磁性鉱物が普遍的に含まれ、土が焼けるとその時の地磁気と同じ方向に磁化します(熱残留磁化)。 焼土を対象として残留磁化測定を行い、焼成時の地磁気の方向(偏角および伏角)を調べ、既知の地磁気永年変化曲線と照合して焼成年代を推定します。

対象試料

窯跡、炉跡、竃など熱を被った遺構の焼土:通常は1つの遺構につき12ヶ所(最低で6ヶ所)、1ヶ所につき3.5×3.5×2cm程度の立方体の試料を採取

■方法

石膏
試料を石膏で固める
クリノメーター
クリノメーターを用いて方位と最大傾斜各を記録

現地において良く焼けた部分の周囲に溝を掘り、石膏で覆います。石膏が固まる前にアルミ板を押し付け、基準となる平面を作ります。 この平面の方位と最大傾斜角を測定して試料を採取します(定方位採取)。現地において定方位採取しなかった試料は分析することができません。

室内において試料を分析装置の仕様に合わせて整形し、スピナー磁力計で残留磁化測定を行い偏角と伏角を調べます。なお、試料の残留磁化には、二次的に獲得した残留磁化が含まれています。 焼成時の残留磁化を正確に測定するためには二次的な残留磁化を除去することが必要です。二次的な残留磁化を除去するために段階交流消磁実験(交流消磁装置使用)を行います。 段階交流消磁実験は交流磁場の振幅を段階的に小さくすることによって、磁化成分を不安定なものから順に除去します。 二次的な残留磁化は不安定で磁化方向が一定しません。磁化方向が一定になった段階で二次的な残留磁化が除去されたものとみなします。

■解析・考察

複数の試料の測定値の統計処理を行い、平均偏角、平均伏角およびそれらの誤差などを求めます。この結果を地磁気永年変化曲線と照合して焼成年代を推定します。 推定された年代はAD○○±△△の形で示します。

年代推定の誤差は小さい場合には10年程度ですが、誤差は対象とする時代により異なります。これは地磁気永年変化の速度が時代によって異なるためです。 東海地方の考古地磁気永年変化曲線(下図参照)を例に挙げると、12世紀から14世紀は変化の速度遅く、誤差は大きくなります。

海地方の西暦700-1700年の考古地磁気永年変化曲線
東海地方の西暦700-1700年の考古地磁気永年変化曲線(広岡・藤澤2002より引用)

なお、地磁気永年変化には地域差があり、より確かな年代推定のためには地域ごとの地磁気永年変化曲線が必要となります。 ただし、地磁気永年変化曲線作成のためのデータが十分に蓄積されていない地域もあるため、地域によっては確かな年代推定を行うことが難しい場合もあるので注意が必要です。 地域ごとの地磁気永年変化曲線は北陸地方(6-16世紀)と東海地方(西暦700-1700年)があります。それ以外の地域での年代推定を行う際は 九州、中国、近畿、東海、関東など各地方のデータにより作成された西南日本の過去2000年間の地磁気永年変化曲線(Shibuya1980)を用いることになります。

■引用・参考文献

広岡公夫・藤澤良祐(2002)東海地方の地磁気永年変化曲線.考古学と自然科学,45,29-54.

中島正志・夏原信義(1981)考古地磁気年代推定法.95p,ニュー・サイエンス社.

Shibuya,H.(1980)Geomagnetic secular variation in Southwest Japan for the past 2,000years by means of archaeomagnetism. 大阪大学基礎工学部修士論文,54p.