業務案内

年代測定及び推定法

放射線炭素年代測定加速器質量分析法(AMS法)

■キーワード

  • 放射性炭素(14C)年代測定
  • AMS法
  • 微量試料
  • 同位体分別効果の補正
  • 暦年代較正
分析機器

■概要

14C年代測定は、遺跡の年代推定を目的とします。AMS法による年代測定は、微量の試料で誤差の小さい測定が可能であることから、適用範囲が広くなります。

■対象試料

試料は、土器付着物(煤・煮こぼれ・内容物)、炭化米などの種子類、動物遺体(特に歯)、貝殻などです。

状態が良い場合には、炭化米1個体程度(約7mg)、木材片1.0×1.0×厚さ0.2cm以上で測定が可能です。なお、AMS法では約5万年前までの試 料を測定することが可能です。

土器断面図
甕付着物の年代測定対象試料(S字甕)

■方法

試料中の不純物を除去するための前処理(酸・アルカリ・酸処理;AAA処理)を行った後、二酸化炭素(CO2)を回収し、 グラファイト(高純度の炭素)を生成します。生成したグラファイトを加速器質量分析計にセットして14Cを測定します。

測定した結果から14Cの半減期(リビーの半減期:5,568年)を用いて年代値を算出します。

炭素は質量の異なる12C、13C、14Cの3種類がありますが、これら炭素は植物と動物、 あるいはその種類によって体内に取り込む濃度が異なります(これを同位体分別効果と呼ぶ)。 したがって、14C年代値は、この同位体分別効果の補正を行う必要があります。

さらに、大気中の14C濃度は、過去一定ではなく経年変化があることなどから、年代値を較正する必要があります。 年代値の較正(暦年代較正)は、較正プログラム(OxCal4.1など)を用いて行います。

■測定試料の選択とその意味

年代値は、測定する試料の種類により意味が異なります。 たとえば、木材は複数年輪をもち最外年輪が枯死または伐採年を示し、種子類の多くは一年生である場合が多く、 その年代値は結実し落下もしくは採集された年代を示します。

また、土器付着物は、胴部の付着物は煮炊きした燃料材起源の煤類が主体であり、 口縁部の付着物は煮炊きの際の内容物ふきこぼれであると考えられます。なお、煮炊き内容物が海産物である場合には、 年代値が数百年古い年代を示す場合があります(海洋リザーバー効果による)。

年代測定は、上記の試料の種類のほか、試料の保管状態や採取の仕方により思わぬ年代値が出る場合 があります。 たとえば、試料を脱脂綿や紙に包んで保管した場合、これらの繊維を取りきれず新しい年代が得られることがあります。 また、土器胎土に使用した 粘土が古い地層の粘土である場合が多く、胎土の一部が混入することで古い年代が得られることもあります。

樹木の部位による年代の違い
樹木の部位による年代の違い
土器断面の中黒層
土器断面の中黒層(有機粘土質の痕跡)

年代値の補正および暦年代への較正

1.年代値の算出

現在の14C濃度に当たるものとして、西暦1,950年の14C濃度を標準とした試料を用いています。 1,950年以降の核実験によって、大気中の14C濃度が高くなったために、14C濃度が過去現在を通じて一定であるとした原理から外れ、測定した年代値に支障が出るからです。つまり、放射性炭素年代測定による年代値は西暦1,950年から何年前のものかを表す数値なのです。 年代値を求める計算式は、

(年代値)=-log(試料の計数率/標準試料の計数率)×(半減期)/log2

となります。この時の半減期は5,568年、標準試料は主にNISTシュウ酸が用いられています。

測定によって算出された年代値とは、標準偏差内の年代値です。例えば、2,500±100yrBPであれば、西暦1,950年から2,400~2,600年前のものである確率が68%であり、2,500年前のものである確率が一番高い、という意味になります。従って、32%の確率でこの年代幅の中の年代値をとらない可能性もあるわけですから、年代値を用いる時はこのことを念頭に入れておく必要があります。

2.年代値の補正

(1)同位体分別効果の補正
同位体分別効果とは、試料種やその環境の違いによって、試料への炭素同位体の取り込み方に差が生じることです。 例えば、樹木などは重い14Cよりも軽い12Cを選択的に取り込むために試料中の14C濃度が大気中の14C濃度より低くなり、 貝などの炭酸塩でできたものは大気中の14C濃度とほぼ同じか高くなる傾向があります。 同位体分別効果は同位体の質量差に比例するので、安定同位体である12Cと13Cの同位体比をみれば、 試料が外部からの炭素の供給を絶った時点の試料の14C濃度を知ることができ、同位体分別効果による年代値のずれを補正することができます。
同位体分別効果の補正のための13C/12C比は、従来は気体質量分析計で測っていました。ところが、加速器質量分析計で14C/12C比を測定する際にも質量分別効果がおこるため、更にこれらを補正する必要があります。 パレオ・ラボでは、加速器質量分析計の測定精度が向上し13C/12C比の高精度測定に適用できるようになったため、13C/12C比も加速器質量分析計で同時に測定し、同位体分別効果の補正を行っています。 標準試料の同位体比はAD1,950年の樹木年輪を用いることから、その平均的な値δ13C=-25.0‰にすべての測定値を規格化する事が国際的に決められています。ほとんどの試料は-20~-30‰の値になるので補正後の年代値は±80年の幅で変わります。 貝殻などは0‰前後であるため年代値で約400年古くなります。
(2)暦年代較正
暦年較正とは、14Cの半減期5,568年を使用しているために起こる年代のずれ(実際の半減期は5,730年ですが、放射性炭素年代測定法が用いられた当時の半減期はリビー教授が算出した5,568年であり、 途中で半減期を変えることによる14C年代値の混乱を防ぐための国際的な申し合わせになっています)、および14C濃度の経年変化(過去の宇宙線強度や地球磁場の変動による14C濃度の変動) によるずれを補正するために、年代が判っている樹木年輪を放射性炭素年代測定法で測定し、年輪の年代と放射性炭素年代測定で出た年代を軸にした較正曲線を作成し、これを用いて年代を較正することです。
測定で算出された14C年代値は、この較正曲線を用いて暦年代に較正することができます。つまり、測定年代と較正曲線との 交点が較正された暦年代となります。 暦年較正には、OxCal4.1 (IntCal09) を使用しています。約五万年前まで較正できますが、一万年よりも古い部分の較正曲線は珊瑚、および湖底堆積物中の縞状の堆積構造を用いたデータであり、 まだ不確定要素を持っているため参考程度にしておくとよいでしょう。 また、海洋性試料については、海洋リザーバー効果によって実際の年代よりも数百年古い年代を示す場合があります。海洋リザーバー効果には地域差があり、平均的には約400年ですが、日本の北の方では700年程度古くなることもあります。 より確かな年代を求めるためには生息していた地域を限定し、暦年較正曲線の差を補正する必要があります。
暦年較正された年代と較正されていない従来の炭素14年代は、ハッキリと分けて用いなければ年代値の混乱の要因になります。 しかしながら暦年代(Calendar age)の方が実年代により近いので暦年代の方を使うようになりつつあります。 しばらくの間は両方の年代値を併記することがよいと考えられます。

試料の種類毎の前処理について

前処理

前処理は試料に含まれる不純物を除去するために行いますが、試料の形態および量によって方法が異なります。 下記にそれぞれの処理方法を示します。 また、ひげ根などの不純物はあらかじめ除去しておきます。

a.炭化物・木片・泥炭など
蒸留水中で細かく粉砕した後、塩酸により炭酸塩を除去します。水酸化ナトリウム溶液により二次的に混入した有機物等を除去し、更に塩酸で洗浄します。
b.土壌など
塩酸により炭酸塩および酸可溶の有機物を除去します。アルカリ可溶の有機物(主にフミン酸)が測 定対象となる炭素を含む土壌などの場合は、アルカリ処理を行いません。測定対象がフュ-ミンの場合、水酸化ナトリウム溶液によりアルカリ可溶の有機物を除 去し、更に塩酸で洗浄します。
c.貝殻・珊瑚など
蒸留水で洗浄した後、希塩酸で表面部分の二次的な炭酸塩を取り除きます。
d.骨・歯・角など
コラーゲンを抽出します。蒸留水で洗浄し細かく砕いた後、減圧下のもと希塩酸でリン灰石等がなくなるまで繰り返し処理します。水酸化ナトリウム溶液を用いて二次的な有機物を取り除きます。
e.土器付着物
土器表面付着の煤、或いは土器内部付着の有機物または炭質物を剥ぎ取り、塩酸により炭酸塩および酸可溶の有機物を除去します。
前処理後、試料中に塩酸が残らないように蒸留水できれいに洗浄します。炭酸塩の試料はリン酸を滴 下して、その他の試料は酸化銅と一緒に850℃に加熱して二酸化炭素を生成し、 精製ラインで水分や二酸化硫黄などの不純物を除去して二酸化炭素を精製します。精製した二酸化炭素を体積比2倍の水素と2mgの鉄粉と一緒に650℃に加熱してグラファイトに調整し、 アルミ製ターゲットホルダーにプレス圧入して 加速器質量分析計にて測定します。